2016年04月25日

の月の都の



 こうしているうちに、宵の時刻が過ぎ?午前0時ごろに、家の周りが昼の明るさ以上に一面に光りわたり?満月の明るさを十倍にしたようで、そこにいる人の毛穴まで見えるほどだった。空から人が雲に乗って降りてきて?地面から五尺ほど上がったところに立ち並んでいる?これを見て?家の内外にいる人々の気持ちは?物の怪に襲われるようで、戦おうとする気持ちもなくなった。何とか思い起こして弓矢を取って矢をつがえようとするが、手に力が入らず萎えてしまった。その中で心のしっかりした者が、恐怖をこらえて矢を放とうとしたが、あらぬ方向へ飛んでいってしまい、荒々しく戦うこともなく、ただ茫然として、お互いに見つめ合っている。立っている人たちは、衣装の美しく華やかなこと、比類がない。空飛ぶ車を一台ともなっている。車には薄絹を張った天蓋(てんがい)が差しかけてあった。 これを聞きてかぐや姫は、「さしこめて、守り戦ふべき下組みをしたりとも、あの国の人を、え戦はぬなり。弓矢して射られじ。かくさしこめてありとも、かの国の人来ば、皆あきなむとす。相戦はむとすとも、かの国の人来なば、たけき心つかふ人も、よもあらじ」。翁の言ふやう、「御迎へに来む人をば、長き爪(つめ)して、眼(まなこ)をつかみつぶさむ。さが髪を取りて、かなぐり落とさむ。さが尻をかきいでて、ここらの公人(おほやけびと)に見せて、恥を見せむ」と腹立ちをり。
 
 かぐや姫いはく、「声高になのたまひそ。屋の上にをる人どもの聞くに、いとまさなし。いますかりつる志どもを思ひ知らで、まかりなむずることの口惜しうはべりけり。長き契りのなかりければ、ほどなくまかりぬべきなめりと思ふが、悲しくはべるなり。親たちの顧みをいささかだに仕うまつらで、まからむ道も安くもあるまじき。日ごろもいでゐて、今年ばかりのいとまを申しつれど、さらに許されぬによりてなむ、かく思ひ嘆きはべる。御心をのみ惑はして去りなむことの、悲しく耐へがたくはべるなり。かの都の人は、いとけうらに、老いをせずなむ。思ふこともなくはべるなり。さる所へまからむずるも、いみじくもはべらず。老い衰へたまへるさまを見奉らざらむこそ、恋しからめ」と言ひて、翁、「胸痛きことなしたまひそ。うるはしき姿したる使ひにもさはらじ」と、ねたみをり。
 
 
 これを聞いてかぐや姫は、「私を閉じ込めて守り戦う準備をしたところで、あの国の人に対して戦うことはできないのです。弓矢でもってしても射ることはできないでしょう。このように閉じ込めていても、あの国の人が来たら、みな開いてしまうでしょう。戦おうとしても、あの国の人が来たら、勇ましい心をふるう人もきっといなくなるでしょう」。翁は、「あなたをお迎えに来るその人をば、長い爪で眼をつかみつぶそう。そやつの髪の毛を取って、かきむしって落としてやろう。そやつの尻をひんむいて、大勢の役人たちに見せて恥をかかせてやろう」と腹を立てている。
 
 かぐや姫が言うには、「声高におっしゃいますな。屋根の上にいる人たちが聞くと、たいそう具合が悪い。お爺さん、お婆さんのこれまでの心尽くしを思い知らないかのようにお別れするのが、何とも残念でございます。この世に長くとどまるという前世からの宿縁がなかったために、まもなくお別れしなくてはならないのが悲しいのです。親たちの世話をわずかも致さず帰っていくその道中も、私の心は安らかにはなりますまい。この幾日かの間も、端近に出て座って、今年いっぱいの猶予を願ったのですが、どうしても許されず、思い嘆いています。お爺さん、お婆さんのみ心をばかり悩まして去ってしまうのが、悲しく耐え難く思います。あ人は、たいそう華やかで美しくて、老いることは実はないのです。思い悩むこともありません。そのような所へ戻りましても、殊更にうれしくもございません。お爺さん、お婆さんが老い衰える姿をみて差し上げられないのが何よりも心残りで、恋しゅうございましょう」と言うと、翁は、「胸が痛くなることをおっしゃいますな。立派な姿の月の国の使者であろうと、じゃまはできまい」と、いまいましがった。 平安前期に成った歌物語の最初の作品。125の短い章段からなる。作者は不明で、数十年の歳月をへて複数の作者によって成立したと考えられる。  


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2016年04月13日

こしませんか



「それで私、主旨を説明したの。これこれこういうわけなのよ、だからモモちゃんも私の隣に来て服脱いで一緒にお父さんに見せてあげようって。でも彼女やんなかったわ。あきれて向うに行っちゃったの。そういうところすごく保守的なの」

「比較的まともなんだよ」と僕は言った。

「ねえ、ワタナベ君はお父さんのことどう思った」

「僕は初対面の人ってわりに苦手なんだけど、あの人卓悅Bioderma二人になっても苦痛は感じなかったね。けっこう気楽にやってたよ。いろんな話したし」
緑はくすくす笑ってから仏壇の鐘をちーんと鳴らした。「お父さん、おやすみ。私たちこれから楽しくやるから、安心して寝なさい。もう苦しくないでしょもう死んじゃったんだもん、苦しくないわよね。もし今も苦しかったら神様に文句言いなさいね。これじゃちょっとひどすぎるじゃないかって。天国でお母さんと会ってしっぽりやってなさい。おしっこの世話するときおちんちん見たけど、なかなか立派だったわよ。だから頑張るのよ。おやすみ」

我々交代で風呂に入り、パジャマに着がえた。僕は彼女の父親が少しだけ使った新品同様のパジャマを借りた。いくぶん小さくはあったけれど、何もないよりはましだった。緑は仏壇のある部屋に客用の布団を敷いてくれた。

「仏壇の前だけど怖くない」と緑は訊いた。

「怖かないよ。何も悪いことしてないもの」僕は笑って言った。

「でも私が眠るまでそばにいて抱いてくれるわよね」

「いいよ」

僕は緑の小さなベッドの端っこで何度も下に転げ落ちそうになりながら、ずっと彼女の体を抱いていた。緑は僕の胸に鼻を押しつけ、僕の腰に手を置いていた。僕は右手を卓悅冒牌貨彼女の背中にまわし、左手でベッドの枠をつかんで落っこちないように体を支えていた。性的に高揚する環境とはとてもいえない。僕の鼻先に緑の頭があって、その短くカットされた髪がときどき僕の鼻をむずむずさせた。

「ねえ、ねえ、ねえ、何か言ってよ」と緑が僕の胸に顔を埋めたまま言った。

「どんなこと」

「なんだっていいわよ。私が気持よくなるようなこと」

「すごく可愛いよ」

「ミドリ」と彼女は言った。「名前をつけて言って」

「すごく可愛いよ、ミドリ」と僕は言いなおした。

「すごくってどれくらい」

「山が崩れて海が干上がるくらい可愛い」

緑は顔を上げて僕を見た。「あなたって表現がユニークねえ」

「君にそう言われると心が和むね」と僕は笑って言った。

「もっと素敵なこと言って」

「君が大好きよ、ミドリ」

「どれくらい好き」

「春の熊くらい好きだよ」

「春の熊」と緑はまた頭を上げた。「それ何よ、春の熊って」

「春の野原を君が一人で歩いているとね、向うからビロードみないな毛並みの目のくりっとした可愛い子熊がやってくるんだ。そして君にこう言うんだよ。今日は、お嬢さん、僕と一緒に転がりっって言うんだ。そして君と子熊で抱きあってクローバーの茂った丘の斜面をころころと卓悅Bioderma転がって一日中遊ぶんだ。そういうのって素敵だろ」

「すごく素敵」

「それくらい君のことが好きだ」

緑は僕の胸にしっかり抱きついた。「最高」と彼女は言った。「そんなに好きなら私の言うことなんでも聞いてくれるわよね怒らないわよね」

「もちろん」

「それで、私のことずっと大事にしてくれるわよね」  


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2016年04月05日

して掴んでは溢



 暫く歩くと、荒れた山家が見えてきた。恐らく山賊どもの塒(ねぐら)であろうと、作兵衛はその前を通り過ぎようとしたが、山家から出てきた女と目が合ってしまった。
   「旅のおかた、どうされました?」
 その女の身綺麗いさと美しさに、悪人ではなかろうと作兵衛は安堵した。
   「この先の村へ行きたいのですが、道に迷い休んでおりま鑽石能量水機したところ人の気配を感じて、もしや旅人を襲う盗賊ではないかと思いここまで逃げて参りました」
   「そうでしたか、それはまさしくこの山家を塒とする山賊でしょう」
 女は、山賊の頭目は自分の夫で、今は訳をお話する間がないか、とにかく逃げ道を教えましょうと言った。
   「この先を真っ直ぐ行くと、薪を保存する小さな洞穴があります、その薪を三束ほど奥へ押し込むと人ひとり入れる穴が開きます」
 この中に入り、薪を戻して身を潜めていなさい。夜が明けると山賊たちは塒から出て行くので、自分が洞穴の入り口で合図をするから出てきなさいと言った。
   「くれぐれも洞穴の奥に入らないでください、地下深くに向かって大きな穴が開いており、落ちると命がありません」
 翌朝、無事に村へ辿り着くように、女が道案内をしてくれるのだと言う。作兵衛にはこの女が女神のように思えた。
   「さ、さ、夫たちが来ます、早く行ってくださいな」
 そう言うと、女は山家の中へ入って行った。

 重い脚を引き摺りながら、作兵衛は必死に洞穴を目指した。焦りながらも考えた。女の言動が腑に落ちないのだ。あの山家で山賊の夫や男たちと暮らしているのだから女も仲間であろう。その女が仲間を裏切って自分を助けようというのだ。
   「あの女は女神などではない、何か裏があるぞ」
 正常時の心境では、そうは考えないことであるが、作兵衛は追い詰められていることと、生来の用心深い性格も相まって勘繰ってしまったのだ。そんな深い洞穴があるのなら、山賊たちも知っていて当然である。作兵衛の足が止まった。案の定、山賊たちは塒の山家を通り越して、洞穴に向かってくる。笹薮に身を伏せて山賊たちを遣り過すと、作兵衛は引き返して山家に向かった。
 そっと山家の戸を開けて中に入ると、居る筈の女の姿が無かった。山賊の群れの中に女は居なかったから、どこかへ消えてしまったらしい。
 作兵衛は山家の裏へ回ると、堆肥にするつもりであろう木の葉が堆積しているところがある。作兵衛はこの中にすっぽりと身を隠すと、朝が来るまでここへ隠れていようと思った。

   「可怪しいな、旅人が洞穴に居なかった」
 女が独り言を呟きながら、何処からともなく姿を現わした。やがて山賊たちが山家に戻ってきた。
   「気の所為だったのか」
   「桔梗、お前は見ておらぬのか?」
   「何をです?」
   「旅人だ」
   「見ていません」
   「まさかこの家に匿っているのではなかろうな」
   「わたしがどうしてそんなことをするのです、夫を裏切るようなことはしていません」
 それでも、山賊の一人が床下を覗き込んだり、戸棚を開けたりしている物音が作兵衛に聞こえた。
   「そうか、気の所為だったらしいな」
 やがて男たちの酒盛りが始まり、夜が更けると鼾が聞こえてきた。作兵衛は起き上がると、こっそり木の葉の中から出てきて洞穴を目指した。
 やはり可怪しい。女は洞穴の入り口に来ずに、作兵衛が洞穴内に居ないことを知っていた。と言うことは、この洞穴には桔梗しか知らない入り口がもう一箇所どこかに有るに違いない。

 作兵衛は、それでも女を信じてみようと、真っ暗な洞穴の入り口の外で刻(とき)をすごした。こんな状況下でも、睡魔に襲われる。作兵衛が「うとうとっ」とした時、薪の隙間から洞穴の奥に明かりが見え、女の影が見えた。女は桔梗である。
   「ちっ、あの男、逃げやがって」
 あの優しい女神が豹変して、丑の刻参りの女怨者のように思えた。桔梗は手に持った燭台を下ろすと、洞穴の壁を撫で、魔術のように壺を出した。壺の中身を「しゃりしゃり」と鳴らし、安心したように元の壁に戻した。
 桔梗は再び燭台を持つと、幽霊のように「すーっ」と奥へ消えていった。
  


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