2016年03月30日

がまだ戻ってきて

「わたしもそう思いました。二日のあいだその城跡に隠れて、三日めの朝のことでした。不思議な音が聞こえたんです。何かの音楽のようでした。最初は羊飼いかと思ったんですが、実際には数匹の山羊を連れた幼い少女でした。その子が山羊飼いのよく持っている笛を吹いていたんです。見たところ六歳くらいで、一目でスティリクム人だとわかりました。スティリクムに関わることは凶運の象徴nuskin 如新だってことは、誰でも知ってます。だからわたしはそのまま城跡に隠れていました。その子のせいで、わたしを探している連中に見つかりたくなかったんです。ところがその子はわたしのいる場所がわかっているみたいにまっすぐ近づいてきて、ついてくるように言ったんです」エックは困ったように言葉を切った。「自分が大人だということはわかっています。子供から――それもスティリクム人の子供から命令されるいわれなどないのですが、その子にはひどく不思議なところがあって、その子に何かしろと言われると、考える前にもう身体が動きだしているんです。おかしな話もあったもんです。手短に言うと、その子はわたしをその城跡から連れ出しました。そこらじゅうで敵がわたしを探していましたが、まるでこっちの姿が見えないみたいなんです。その子はずっとアーシウムまでわたしを先導してくれました。相当な距離があるはずなのに、なぜか三日しかかかりませんでした。実際には四日ですか。山羊が二匹の子供を産んで、その日はずっと移動しませんでしたから。その子に言われて、仔山羊はわたしが馬に乗せて運びました。やがてウォーガン王がレンドー人を包囲している砦に着いて、そこでその子はいなくなりました。まったく不思議なんです。スティリクム人嫌いのこのわたしが、その子の姿が見えなくなると声を上げて泣いてしまったんですから。去りぎわに、その子はわたしに軽い口づけをしてくれました。まだ頬にその感触が残っています。それ以来いろいろと考えて、このごろはスティリクム人もそう悪くないんじゃないかと思うようになっています」
「どうもありがとう」セフレーニアがつぶやいた。
「わたしは包囲軍に近づいて、聖議会からウォーガン王への伝言を携えていると伝えました。それで陛下の前に案内されて、書類をお渡ししたんです。陛下はそれをお読みになってすぐに兵をまとめ、われわれは強行軍でここへ駆けつけました。お話しすることはだいたいそのくらいです」
 クリクがにこにこしながらセフレーニアに声をかけた。
「さてさて、どうやらフルートはまだその辺にいるらしいですね。それも精nu skin 香港霊なんかじゃなく、肉体を持って。いかがです?」
「どうもそのようですね」セフレーニアも笑みを浮かべかけていた。
「書類だって?」エンバン大司教がオーツェル大司教に目を向ける。
「聖議会の代弁をさせてもらった。伝令全員に、ウォーガン王|宛《あて》の文書の写しを持たせたのじゃ。状況を考慮して、構わんじゃろうと思ったのでな」
「わたしはむろん構わないがね。だがマコーヴァは面白くないと思うかもしれん」
「いずれ謝罪しておこう――もしそんな気になるようなことがあったならば。ほかの伝言がウォーガン王に届くかどうか確信がなかったので、こちらで起きていることをとりあえずすべて書き記しておいたのじゃ」
 こうした話の内容をウォーガン王が把握するまで、しばらく時間がかかった。
「それはつまり、たった一人の大司教が――それもサレシア人ですらない者が、余に軍を動かせと命じたということか」ウォーガンは声を荒らげた。
「それは違う」そう言ったのは巨漢のバーグステン大司教だった。「わたしはカダクの大司教の決定を全面的に支持する。従って陛下はわたしの命令で軍を動かしたのだ。その点について、このわたしと議論したいかね」
 ウォーガン王は急に弱気になった。
「ああ、いや、それなら話は別だ」バーグステンは議論をしたいと思うような相手ではない。ウォーガンは急いで話を先に進めた。「その文書を何度か読み返して、シミュラへ寄っていくのが上策だろうと判断した。そこで本隊はドレゴスとオブラーに任せて先行させ、余はエレニア国の首都を防衛させるべく、エレニア軍を率いてシミュラに向かった。だが到着してみると、エレニアの首都は平民の手で防衛されておった――と言っても誰も想像できんだろうがな。しかもその者たちは余の入城を拒み、あそこの太った男がうんと言うまで、門を開けようとさえしなかったのだ。正直なところ、シミュラにいったいどんな危険があるのかさっぱりわからなかったぞ。城壁の上の店主や職人たちが街を守る態度は、どんな兵隊にも負けないものだったと余は公言する。ともあれ、王宮でレンダ伯に会うと、王冠を戴《いただ》いたこの若く美しい女性を紹介された。そしてその場にはあの悪党もおったのだ」王はストラゲンを指差した。「やつはエムサットで余の四番目の従兄弟をあの細身剣《レイピア》の餌食《えじき》にし、首に賞金を懸けられておった。もっとも、余がそれを認めたのは従兄弟に対する個人的な感情からではなく、家系に対する思いからだったのだがな。何しろあの従兄弟は、顔を見るだけで気分の悪くなるようなやつだった。人前で鼻をほじる悪い癖があってな。だが今はもうそんなことはない。ストラゲンがしっかり串刺《くしざ》しにしてくれたからだ。とにかく、余はこの盗賊を縛り首にしようとしたが、エラナに説得されて取りやめた」大きくエールをあおり、「やめなければ宣戦を布告するといって余を脅したのだぞ。何とも攻撃的な女性だ」ウォーガンは急にスパーホークに笑いかけた。「おめでとうを言うべきなのだろうな、わが友。だがエラナのことをよく知るまで、鎧《よろい》は脱がんほうがいいかもしれん」
「わたくしたちはお互いをよく知っておりましてよ、ウォーガン」エラナが堅苦しく言った。「スパーホークはわたくしを赤ん坊のころから育ててくれました。わたくしの態度に荒々しい面が感じられたなら、それはスパーホークのせいですわ」
「そんなことだろうと見当をつけて然るべきだったな」ウォーガンはほかの者たちに笑いかけた。「このカレロスで起きていることを説明すると、エラナはエレニア軍を率いて戦闘に参加すると言いだしたのだ。絶対にだめだと言うと、手を伸ばして余の頬髭《ほおひげ》を引っ張り、こう言いおった。〝構いませんわ、ウォーガン。それならカレロスまでわたくしと競争ですわね?とな。頬髪を引っ張られたことなどこれまnuskin 香港でなかったから、余はお返しにエラナをひっぱたこうとした。女王だろうと何だろうと構いはせん。するとそこにいる大女が介入してきたのだ」これがタムールの女巨人ミルタイだろうとスパーホークが見当をつけていた女性を見て、ウォーガンは身震いした。「あれほどすばやく動けるとは、今もって信じられん。瞬《まばた》き一つする間もなく、余は喉元にナイフを突きつけられておった。今の手勢でじゅうぶんにカレロスを占領できるからとエラナを説得しようとしたのだが、守らねばならん大切な財産があるとか何とか反論されてな。そこのところが今一つはっきりせんのだが、とにかくわれわれはいっしょにシミュラを出て、ドレゴスとオブラーに合流し、聖都まで進軍してきたというわけだ。さて、いったいどういうことになっているのか、誰か説明してもらえんかな」
「例のごとくの教会政治ですよ」エンバン大司教が答えた。「母なる教会が陰謀を称讃することはご存じでしょう。聖議会で時間稼ぎをやっとったわけです。票を操作したり、大司教を誘拐したりといったことをね。かろうじてシミュラの司教を玉座から遠ざけられたと思ったとき、マーテルが現われて聖都を包囲しました。われわれは旧市街の城壁の中に撤退し、そこを最後の砦としたわけです。昨夜ご到着になったときには、決定的な事態に至る一歩手前というところでした」
「アニアスは逮捕されたのかな?」オブラー王が尋ねた。
「残念ながら、陛下」とドルマント。「夜明け前、マーテルのせいで惜しいところを取り逃がしました」
「それはまことに残念じゃ」オブラー王はため息をついた。「だ総大司教選挙に打って出る可能性はあるのではないか」
「アニアスが戻ってくれば、こんなに嬉しいことはありません」ドルマントは冷酷な笑みを浮かべた。「アニアスとマーテルの関係はお聞き及びでしょうが、この二人とオサのあいだに交渉があるのではないかという疑いがあったのです。幸運なことに、総大司教近衛隊の隊長とともに、アニアスとマーテルの話を盗み聞くことができました。隊長は完全に中立の立場ですし、そのことは誰もが知っています。隊長が耳にしたことを聖議会で報告すれば、アニアスは教会から追放されるでしょう――どんなに軽い処分であっても」しばらく言葉を切って、「さて、ゼモック軍がラモーカンド東部に集結しているのは、オサとアニアスの密約のためでした。カレロスでの計画が失敗したことを知れば、オサはただちに西への進軍を開始するでしょう。何か手を打つことを提案いたします」
「アニアスがどちらへ逃げたか、何か手がかりはないのですか」エラナが目に強い光をためて尋ねた。
「アニアスとマーテルは、アリッサ王女とお従兄のリチアスを連れて、保護を求めにオサのもとへ向かいました」スパーホークが答える。
「何とか途中で捕まえられませんか」
「やってはみますが、あまり期待は持てません」騎士は肩をすくめた。
「あいつを捕まえたいのよ、スパーホーク」  


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2016年03月23日

ジが飛び交いまし

つまりこの問題は、日本の農村を日米大企業の草刈り場にするのか、助け合いを基礎とした地域コミュニティを守るのかが問われていると言えるでしょう金秀


 有名な話ですが、オーストラリアの小麦の農協AWBは、農家が株主となって株式会社化しましたが、その後カナダの肥料会社アグリウムに買収され、その1カ月後には米国資本の穀物メジャー、カーギル社に売り払われました。

 仮に全農が株式会社化した場合、同様の事態が考えられます。全農の子会社「全農グレイン」は米国ニューオリンズ州に世界最大の穀物船積み施設を保有しています高血壓中醫が、アメリカの穀物企業にとってここは目の上のたんこぶだといいます。

なぜなら全農は、ここで遺伝子組み換え作物を分別して管理しているからです。東京大学の鈴木宣弘教授は「遺伝子組み換え作物を混入しないよう管理している全農グレインは、米国にとって不愉快な存在でしかない。AWBのように全農を株式会社化して、その後に買収するというシナリオは十分あり得る」と指摘しています。

6月10日、普段は比較的静かな農水委員会室にヤた。質問に立ったのは10回目ですが、あんなにヤジられたのは初めてです。今国会に提出されている農協法改正案について、なぜ農協の反対を押し切ってまで組織を解体するようなことをするのか、どういう経過でそうなったのか、率直に指摘しました。

 私たちの食の安全すら危険にさらされかねないのです。  


Posted by ょうどまうえ at 12:29Comments(0)

2016年03月01日

騎士はエラナを知っている

 これから進む道はひどい悪路だと聞いていたので、その翌朝、一行は馬車を宿の主人に託し、全員が馬に乗って出発した。暗い街路は松明《たいまつ》の光に照らし出されていた。前の日にクリクが酔っ払いから聞き出した情報をスパーホークが全員に伝えていたので、ヴェンネの北門を出た一行は、油断なくあたりに気を配って進んでいった。
「ただの迷信かもしれないぜ。さんざん恐ろしい話を聞かされて、行ってみたら何のことはない、何世代も昔の話だったなんて経験があるからな」
 カルテンの言葉に、スパーホークはうなずいた。
「確かに辻褄《つじつま》の合わない話ではある。バレルの職人は、ガセック伯爵が学者だと言っていた。異国の血なまぐさい風習には、いささか似つかわしくないような気がするな。とにかく気をつけていこう。故国から遠く離れているだけに、助けを呼ぶのはいささか大変だ」
「わたしは後方を見張ります」ベリットが名乗りを上げた。「ゼモック人が尾《つ》けてきていないと、はっきりわかっていたほうが安心で搬屋公司推介すから」
「ドミに任せておけば大丈夫だとは思うが」とティニアン。
「でも――」
「行ってくれ、ベリット」スパーホークが促した。「万一ということもある」
 一行は無理をせずに普通駆足《キャンター》で進んでいった。日が昇るころには、道が二股に分かれているところまでやってきていた。左の道は泥の中に轍《わだち》の跡が残る、細い踏み分け道にすぎなかった。数日前から降りつづいていた雨のせいで、泥道がさらに通りにくくなっている。道の左右は深い藪《やぶ》だった。
「ゆっくり行くしかないな。もっといい道でも、山に入ると険しくなるのが普通だ」アラスがそう言って、すぐ先にそびえている山々のほうを見やった。
「頑張るしかないだろう」とスパーホーク。「とはいえ、アラスの言うのももっともだ。四十リーグといえばけっこうな距離だし、悪路のほうが短く感じられるというわけではないからな」
 一行は泥道を速足《トロット》で進みはじめた。アラスが言ったとおり、道はだんだんと悪くなった。一時間ほどすると、一行は森の中に入った。常緑樹の森の中は陰鬱《いんうつ》で薄暗かったが、空気はひんやりと湿っていて、甲冑を着けた騎士たちにとってはありがたかった。しばらく休憩してパンとチーズの昼食を摂《と》ると、スパーホークたちはさらに山道をたどっていった。
 あたりは不気味なほど人気《ひとけ》がなく、小鳥のさえずりさえ聞こえない。ただ黒い烏《からす》だけはほとんどどの木にもいて、しきりにしわがれた鳴き声を上げていた。陰気な森に夕闇が迫ってくると、スパーホークは道から少し離れたあたりをその晩の野営搬屋地に定めた。
 森の鬱々たる雰囲気は能天気なカルテンにまで影響を与え、一行は黙々と夕食を終えると、早々に寝袋にもぐり込んだ。
 真夜中ごろ、アラスがスパーホークを起こして見張りの交替を告げた。
「このあたりは狼が多いらしい」巨漢のジェニディアン騎士が小さな声で言った。「背中を木の幹にあずけておいたほうがいい」
「狼が人を襲ったという話は聞いたことがないな」ほかの者たちを起こさないよう、スパーホークも声をひそめて答える。
「普通は襲わない。狂犬病にかかったのは別だが」
「そいつは心休まる話だ」


「気に入ってもらってよかった。おれは寝る。長い一日だったからな」
 スパーホークは焚《た》き火の明かりの輪から離れ、五十ヤードほど森の中に入って闇に目を慣らした。森の奥から狼の鳴き声が聞こえる。ガセックに関する悪い噂の出所が、何となくわかったような気がした。この陰鬱な森だけでも、迷信深い人々の恐怖を掻《か》き立てるにはじゅうぶんだ。それに加えて、つねに凶兆とされる烏の群れが巣食い、さらに背筋の凍るような狼の声まで聞こえてくるのだ。噂がどうやって始まったのか、もはや明らかではないか。スパーホークは目と耳に神経を集中し、慎重に野営地のまわりを見まわった。
 四十リーグ。道がだんだん悪くなっていることを考えれば、一日に十リーグ進むのが精いっぱいだろう。のんびりしたペースに苛立ちはつのるが、こればかりはどうにもならない。ガセックにはどうしても行かなければならないのだ。だがもしかすると、伯爵はサラク王の墓の在処《ありか》を知っている者と行き合っておらず、この退屈で時間のかかる旅はまったくの無駄に終わるかもしれない。そんな考えを、スパーホークは急いで頭から追い払った。
 あたりの森の様子をうかがっているうちに、もし無事にエラナを救うことができたらどうなるのだろうという思いが、ぼんやりと頭の中に漂ってきた。エラナのことは子供時代しか知らないが、あの子ももう小さな女の子ではない。こんな大人になるだろうという個性の片鱗を目にしたことはあったが、とはとても言えないような状態だった。いい女王になるだろうということには確信があったものの、個人としてのエラナは、いったいどういう女性なのか。
 闇の中に動きを感じて、スパーホークは足を止めると剣の柄に手をかけた。目を凝《こ》らすと、焚き火の光を反射する二つの緑色の目が見えた。狼だ。狼はしばらく焚き火の炎をじっと見つめていたが、やがて音もなく森の中へと引き返していった。
 スパーホークは息を詰めていたことに気づき、音を立ててそれを吐き出した。狼と対峙してまったく不安を感じない人間など、いるはずがない。不合理なことだとわかっていても、本能的に背筋が寒くなるのだ。
 月が昇り、暗い森の上に青白い光を投げかけた。見上げると雲が流れてくるのがわかった。雲は徐々に月を隠し、さらに濃くなっていくようだ。
「また雨か。舞台としては最高だな」スパーホークはかぶりを振り、闇の中に目を凝らしながら見まわりをつづけた。そのあとティニアンと交替して天幕に戻り、眠っていると肩をゆすられた。
「スパーホーク」タレンだった。騎士はすぐに目を覚ました。  


Posted by ょうどまうえ at 13:14Comments(0)